【interview】「拝啓、現場より。」コーナー立ち上げに当たりヨシダワタル(現場主義)とサクマユウヘイ(LONG PARTY RECORDS)のインタビューを公開!
LONG PARTY RECORDS内にライブイベント「現場主義」とのコラボコーナー「拝啓、現場より。」がオープンした。
ライブハウスで知り合った、LONG PARTY RECORDSの中の人ことサクマユウヘイと、「現場主義」の主催者で某CDショップの店員・ヨシダワタル。
「ノリで始めた」という2人に、今回のコラボの経緯や未流通バンドの魅力などを聞いた。
ロンパリのいいところは“ちゃんと火が通せる”こと
――今回、LONG PARTY RECORDS内にライブイベント「現場主義」のコーナー「拝啓、現場より。」を置くことになったきっかけを教えてください。
サクマユウヘイ コロナ禍の今、ライブハウスは閉めざるを得なくて、バンドはライブができなくて。いろんな人が「何かできないかな」って考えて動いてるところだと思うんだけど、俺は流通会社の人間で、るんちゃん(ヨシダ)はCDショップの店員。そんな俺らが盛り上げていけるのは円盤の業界で。幸い、今の状況下でもオンラインショップは動けてるから、だったら取り扱いバンドを増やすことで円盤の業界の助けになれるんじゃないかと思って、その一環としてるんちゃんに声をかけた感じかな。
ヨシダワタル ロンパリは俺のイベントにも何回か出店してもらってるし、先生(サクマ)にはライブを観に来てもらったりもして、普段はその中でいろんなバンドを紹介してたんだけど。ライブができなくなっちゃったから、俺のお墨付きということで、「現場主義」に出てるようなバンドの音源をロンパリに置かせてもらうみたいな。
――普段から、LONG PARTY RECORDSで取り扱うのはそうやって顔を合わせたバンドだけなんですか?
サクマ 最初はそうだったんだけど、ここ1年くらいは違うバンドもいる。単純に追いきれなくなっちゃって。ただ音源は常に募集してるから、全部聴いて、グッときたら返信して取り扱わせてもらうっていう流れ。特に今はライブハウスが閉まっちゃったこともあって、お客さんからの「誰々を扱ってください」っていう要望も多くて。これまでお客さんの声に関してはカバーしきれない部分もあったけど、今は普段より時間もあるし、自分の自己満足だったものを、間口を拡げて1人でも買ってくれる人がいるならアリかなと思うようになった。「拝啓、現場より。」を含めたら、4月だけで40バンドくらい増えた。
ヨシダ すごい! 自分もCDショップで働いてる身だけど、ロンパリのいいところって、料理で言ったら“ちゃんと火が通せる”ってことだと思うんだよね。自分たちの好きなように宣伝もできるし、ノウハウもわかっている流通の人がやってるから、バンドも何かと、例えばバンドの将来像も相談しやすい。そういう店から声をかけてもらえてうれしかったな。
「『現場主義』と言えばこのバンド」がいないのがすごい
――このコーナーで取り上げるバンドは、ヨシダさんがセレクトするんですか?
ヨシダ そう。
サクマ 一応「このバンド、どうすか?」って言ってくれるけど、基本的にるんちゃんがOKなら俺はNG出さない。あくまでも「現場主義」のコーナーだから。
――そこまで「現場主義」とヨシダさんを信頼してるのはどうして?
サクマ 正直、るんちゃんがイベントを立ち上げた最初の頃は「なんかやってるなー」くらいで、悪く言うと「そんなに長く続かんだろ」と思ってたの。いろいろ考えてるんだろうけど、ノリで始めたように見えた。2017年の3月から始まって……もう30回以上やってるよね? そんなにやられたら認めざるを得ないっていうか……普通にすごい。自分もイベントを開催するからわかるけど、気力と体力、根気がすごいなって。
ヨシダ なるほど。
サクマ しかも「現場主義」のレギュラーっぽいバンドはいるけど、「『現場主義』と言えばこのバンド」っていうのが、俺から見てる分にはいなくて。るんちゃんの中にはあるかもしれないけど。それがすごいいいことだなと思う。常に新規開拓をしてる。
ヨシダ それは持ちつ持たれつみたいなところはあるよ、ロンパリと。
サクマ でもロンパリで見つけたとしてもそこからオファーする気力がすごいよ。知ってるバンドだったらLINE1発、電話1本でイベントに誘えるけど、「初めまして」から入るって体力使うじゃん。主催の顔がわからない状態でのイベントのオファーって、バンドからしたらハードルが少し上がる。それに毎回挑戦してるのはすごいなと思う。もちろん「現場主義」に出てるバンドで、実際に俺がライブ見て「まだまだだな」って思うバンドもいるけれど、そういったバンドも「現場主義」への出演を重ねるごとにカッコ良くなったりして、だからるんちゃんにはセンスの面というよりも人間力としての面で信頼してる。だから「拝啓、現場より。」もカッコよく育ててくれるんだろうなと思ってる。
――もしサクマさんが「まだまだだな」と思うバンドの音源を、ヨシダさんが「拝啓、現場より。」で取り扱いたいって言ってきたらどうするんですか?
サクマ 俺には見抜けない良さがあるわけでしょ。だからるんちゃんがOKだったらOK。LONG PARTY RECORDSは俺のものだけど、「拝啓、現場より。」はるんちゃんのものだから。最終的に俺もそのバンドを好きになればみんなハッピーだし。
ヨシダ そうだね。
サクマ 一般公募にしても「まだまだだから」とか「クオリティが低いから」という理由では取り扱わないことはないかな。「この先どうやって成長していくんだろう?」っていう楽しみがあるから。逆に取り扱わないのは、あまりにもジャンルがかけ離れてるもの。LONG PARTY RECORDSはジャンルレスを謳ってるけど、お客さんはメロコア好きの人が多いから。
“ロンパリっぽくない”JasonAndrewとDOGGYMANを第一弾に
――最初に「拝啓、現場より。」に参加したのはJasonAndrewとDOGGYMANです。この2組についてヨシダさんから紹介してもらえますか?
ヨシダ この2組は、俺が憧れてきたバンドとかライブハウスの空気感があるバンドで。まずJasonAndrewはRYOSUKEさん(STEP UP RECORDS)から「KARIBUxNOxKAIZOKU(THE FOREVER YOUNGの前身バンド)時代のクニちゃん(クニタケヒロキ)リスペクトのボーカルがやってるバンド」と聞いていて。ライブを見たら単純にカッコよかった。俺が昔から憧れてたライブのような……例えば昔遊びに行った中野MOONSTEPでのNO HITTER企画。NO HITTERと同じ北海道のsnatch、St.ELMO’S FIREと、関東のA.O.W、COUNTRY YARD、ELECTRIC SUMMERとかが出てたイベントの、ぐっちゃぐちゃになるライブね。JasonAndrewは将来的にそんな雰囲気のイベントに出演してそうな感じがあった。でも彼らはまだ今、20歳。年齢的にも、俺が感じた感覚と合わせて考えてみると、改めて音楽シーンって面白いなあって思ったんだよね。
――DOGGYMANは?
ヨシダ たまたまTwitterのタイムラインにMVが出てきて、観たら単純にカッコよかった。ちょうど若手だけの2DAYSイベントを5月末開催として作ってるときだったから、即オファーして出演が決定してたんだけど、コロナの影響でイベントは延期。だから実際DOGGYMANはまだライブは観たことがないんだけど、俺の大好きなCOUNTRY YARDを彷彿とさせるようなサウンドで、映像だけでもライブの感じが伝わってきた。“流行りに関係なく自分たちのやりたい音をやってる”って感じもあって。DOGGYMANもJasonAndrewも、ロンパリっぽくなくていいなと思って、この2組を第一弾にしたかな。
サクマ るんちゃんの中でどういうのがロンパリっぽいの?
ヨシダ 俺のロンパリイメージは、キャッチーでシーンの流行を捉えてるようなもの。そういう意味で、オールドスクールなメロディックパンクとかハードコアは今のところあんまりイメージにはいないなと。
サクマ ああ、なるほどね。流行を捉えてる感じが出てるのは、毎週ランキングを発表してるからかも。「このバンドが入るなら俺らも」って、近い系統のバンドが応募してくれるのは必然で。しかもそのランキングを作ってるのはお客さんだから、自然と流行が表れるのかも。
ヨシダ “ロンパリのシーン”があるよね。お客さんがCDを買って、それがランキングを作ってるからこそ、そのシーンが形になってきてる。
サクマ どういうショップになっていくかはお客さんが作っていった感じはあるね、俺じゃなくてさ。メロディックハードコアのバンドも取り扱ってはいるんだよ。だけどそれがメインどころでないのは、お客さんが作っていった結果なんじゃないかな。ちなみにJasonAndrewとDOGGYMANに関しては、最初に聞かせてもらったときに「るんちゃんっぽい」と思ったの。るんちゃんは“COUNTRY YARDが好きなやつ”として出会ったから。そう思うと、やっぱりLONG PARTY RECORDSはメロディックハードコアのバンドは少ないから、そこを連れてきてくれてよかったな。ノリで始めたけど、しっかりハマってよかった。
――その後、第3弾にSWING、第4弾にWATERが加わりました。この2組についても教えてください。
ヨシダ SWINGは根強く盛り上がり続ける東海シーンのバンドの1つであって、男女混声メロディックパンクという、カテゴリーからしてロンパリのお客さんに刺さりそうだなと思った。実際には泥臭いメロディックパンクの持ち主だけど、“ロンパリシーン”に対する俺なりの物差しみたいな感じかな。東海シーンのバンドだから先生と面識がなかったのは意外だったけど(笑)。
――WATERは?
ヨシダ 「現場主義」は新宿ACBでずっとやり続けているイベントで。だから「拝啓、現場より。」には今のACBで奮闘しているバンドをどうしても入れたくて、そうなるとWATERしか思い浮かばなかった。彼らはちょうどツアー中だったんだけど、コロナの影響でツアーの終盤公演ができなくて。「拝啓、現場より。」に置いてもらう「New Home」は、このツアーで持って回ってた音源だったから、これをきっかけに出会う人が増えたらと思います。
えげつない成長をしていく姿がデモバンドの面白さ
――そもそもサクマさんがデモバンド限定のオンラインショップを始めたのはどうしてだったんですか?
サクマ 実はLONG PARTY RECORDSは俺発信じゃなくて。最初は会社から「こういうのやれよ」って言われて、興味があったから始めたんだよね。で、やるとなったら利益を上げないと会社で肩身がせまいじゃん。そこでどうしようかなって考えたときに、メロコア版のディストロってあまりないから……変な話、ビジネスチャンスだと思った。俺、HOLIDAY! RECORDSをすごく意識してるんだけど、そのメロコア版みたいな。
――流通会社の社員の立場で言うと、いいバンドを見つけたらLONG PARTY RECORDSで扱うこともできる一方で、「CDを流通しましょう」と声を掛けることもできると思うんですが、そこの使い分けはどんなふうに?
サクマ CDショップに置くとなると、バンドにとって出て行くお金も多くて。だからその前のワンクッションがLONG PARTY RECORDSっていうイメージかな。みんなゴールは何百万枚売れてどこどこに立つとかそういう話だと思うから、そこへのステップアップとしてLONG PARTY RECORDSを使ってもらえたらいいかなと思ってる。
――二人ともデモバンド、未流通バンドが好きでLONG PARTY RECORDSや「現場主義」をやっていると思うんですけど、デモバンドの魅力はどういうところですか?
サクマ 成長を追えるところ。それは楽曲だけじゃなくて、例えばトレイラーとかもそうで。1stデモのトレイラーなんて覚えてたての動画編集みたいなものが多かったりするんだけど、それが作品を重ねるごとによくなっていくの。そうやって育っていくのを見るのが超面白い。しかも成長の振り幅がえげつないから。ある程度形になってるバンドだと100が101になっていくような成長の仕方だと思うんだけど、デモバンドの1stから2ndって1から50になるくらいなんだよね。明らかに音質がよくなってたり、CD-Rだったのがプレスになってたり。初期衝動って1stにしか出ないから2ndのときにどう変わってるか、受け取るときにワクワクする。
ヨシダ 伸び代を感じやすいことかな。個人目線だけど、数ヶ月会わないだけですごく成長してたり、逆に伸び悩んでいたりする。未流通バンドって、バックに“大人”がいないから、最初に言った通り”火が通しやすい”と言うか、もはやバンドへ直火。バンドだけで何か持ち帰って、それぞれの生活もこなしながら、メンバーと切磋琢磨して、またバンド活動してという人間模様を見られるのは未流通バンドならではなのかなって。あとは毎回自分が原点回帰できるのがいいのかもしれない。ライブ見ながら「このバンドってあのバンドっぽいな」って思ったり「あのバンドの伸び悩んでいたときみたい」って思ったり。自分の中での引き出しも増やしていきつつ、そういう話をしながらバンドたちに還元できたらと思ってる。
この楽しいのがずっと続けばいい
――今日改めて話をして、音楽的趣向が全然違う二人が仲いいの、不思議だなと思いました。
ヨシダ あはは(笑)。
サクマ 俺ら、あんまり意見合ったことないよね(笑)。
ヨシダ 俺、青春パンク通ってないし。
サクマ 見てきたものが違うから面白いっていうのはあるよね。
――最後に「拝啓、現場より。」の今後の展望を聞かせてください。
ヨシダ 「現場主義」かLONG PARTY RECORDS、どっちかがなくなるまで続けたらいいんじゃない?
サクマ 俺も一緒の考えかも。特にゴールは決めてなくて、この楽しいのがずっと続けばいいんじゃん?って。その結果、バンドたちも売れたらハッピー。
ヨシダ そうそう!
サクマ 今のところは、ここから派生してイベントをやりたいとかではない。LONG PARTY RECORDSにとってはコンテンツの1つとして確立してくれたらうれしいね。
ヨシダ 「LONG PARTY RECORDSに置きたいんですけど、接点がなくてヨシダさん、なんとかしてください」みたいなバンドが出てきたら面白いね。
サクマ 逆もあるかもね。続けてれば楽しいことがいろいろあると思うから、続けるのが目標かな。なのでバンドの皆さん、これからもLONG PARTY RECORDSを頼ってください! いつでも連絡待ってます!
(取材・文 / 小林千絵 [@twinkle_chiko])
サクマユウヘイ(@saku624)
株式会社LD&Kで営業担当&たまに担当バンドのマネージャー&LONG PARTY RECORDSの店長。僕しかいないんで店長しかいないんですけど。
会社関係なく本気の遊びでロンパリナイトというイベントをたまにやってます。
基本的には海より山派!
ヨシダワタル(@1rnrn9)
2010年頃からライブハウスで出会った音楽、バンドに魅了され、2013年10月より某大手CDショップで働き出す。
その傍ら、一念発起して新宿ACBで「現場主義」というイベントを2017年3月より旗上げし、その他派生イベントやバンドとの共同開催を含め、2020年5月時点の約3年間の中で40本以上のイベントを敢行しているイベンター、ではなく"サムライ"である。